「葵と源氏車」の飛び柄小紋です。
葵と言いますと、ついつい徳川家の家紋(三つ葉葵)を思わせますが、源氏車と呼ばれる貴人が乗る牛車の車輪を意匠化した文様が一緒に描かれています。源氏物語の葵の上も連想する染小紋です。
源氏物語の「葵」といえば、
京都の葵祭の日に、葵の上の一行の権勢にまかせた乱暴によって六条御息所の牛車が破損し、見物人で溢れる一条大路で恥をかいてしまった六条御息所。その御息所の生き霊の仕業で、葵の上は病床についてしまいます。苦しむ葵の上を看病している源氏に、御息所の生き霊が目の前に現れ、葵の上の命を奪うという衝撃的なシーンで有名です。
生き霊が登場するというダイナミックな展開も現代人からすると斬新に思えます。今のドラマや脚本では考えられない展開・着物の図柄に繋がるストーリーがあるのも、古典のもつ楽しみです。
葵の模様にしても、源氏車にしても、雅やかさを伝える文様として、江戸期の武家出身女性の着用していた豪華な刺繍加工がなされた打掛や帷子に、菊や紅葉や牡丹などの定番の模様とともに描かれています。今でも美術館・博物館に所蔵され、東京国立博物館の特別展「きもの展」にも多数展示されていました。
洗練されている何気ない飛び柄の小紋ですが、それぞれとても意味のある古典図案で構成された小紋です。
合わせた西陣織の名古屋帯は、今年の年初に楽美術館で楽茶碗の菊模様に感動したことから、京都で調達してきました西陣織九寸名古屋帯です。
問屋さんのセールで見つけた小紋ですが、きっと西陣織の九寸にピッタリ合うだろうと思いました。
今年は、京都の葵祭りもコロナウィルスの影響で、行列行事を中止すると聞いておりましたので、京都の職人さんや企業はいかがお過ごしだろうかと思いを馳せながら、仕入れて参った次第です。
薄鼠地の小紋は七宝模様が飛び柄になっている染小紋です。
西陣織の黒地の袋帯と合わせてみました。
上品な小紋なので、金糸や銀糸で豪華になっていない袋帯であれば、格を問わずに綺麗に纏まります。
普段着にも、お稽古着としても、簡単なお茶席やお食事会など少し改まった場所にも、おすすめの小紋です。